会社の防災備蓄は社員が使える?配布と運用の見直し方

大きな地震で交通機関が止まると、建物の安全を確認したうえで、社員が職場にとどまる場面があります。そのとき必要なのは、水や食料が倉庫にあることだけではありません。必要な人が受け取れて、その人が使える状態になっていることです。
備蓄品を買った担当者は中身を知っていても、ほかの社員は保管場所も使い方も知らない。個人で備えようとしても、ロッカーがなくて置けない。使うまでの手順や置き場も、会社の備えに含めて考えましょう。
私が会社の備蓄で重視するのは、購入した数を確認するだけでなく、社員が受け取り、使い、片付けるまでを確かめることです。この記事では、保管場所、配布ルール、使いやすさ、社員の負担という順に、自社で見直す方法を紹介します。
誰の分を用意しているか、実物と照合する
まずは備蓄リストと現物を照合します。「備蓄がない」のか、「あるが社員に知られていない」のかを分けましょう。食品と水はあっても、携帯トイレや使用後の袋を保管する道具が抜けていないかも確認します。

国のガイドラインでは、施設内待機のための備蓄の対象を、正規・非正規を問わず事業所内で勤務する従業員としています。社員数の欄に正社員だけを書いていないか、派遣社員やパートを含め、実際にその場所にいる人と照合してください。[1]
介護施設や店舗などでは、利用者やお客様の備えと、その対応を続ける職員の備えを分けて数えます。利用者に配った後、職員が食べる分が残るかまで確認しましょう。来客や外部の人を受け入れる分も、対象と数量を決めておきます。
配る作業をしている人も、受け取る人数に含めます。配布担当や受付担当の分を取り置き、交代で受け取れるようにすると、窓口へ来られない人の受け取り漏れを防げます。
何を何人分そろえるかを先に整理したい場合は、企業の防災備蓄品リストと優先順位も参考にしてください。
担当者がいなくても、保管場所から取り出せるか
備蓄リストには数量や期限と一緒に、保管場所、鍵の管理方法、配布を始める判断、担当と代行者を残します。保管場所を「倉庫」とだけ書かず、入社したばかりの社員にも分かる部屋名や棚番号で示してください。

担当者が休みの日でも、代行者が解錠して必要な物を取り出せるかを確認します。説明が社内ネットワーク上にしかない場合は、停電や通信障害で見られなくなる条件も考え、保管場所の近くに必要な手順を残しましょう。
東京都が紹介するスタッフサービス・ホールディングスの事例では、倉庫に備品の配置や一覧、配布方法を掲示し、1日分の備蓄品の実物見本も用意しています。防災ツアーでは、場所だけでなく配布量と配布方法まで確認しています。[4]
「どこにあるか」を知らせるときに、「誰が、何を、どれだけ渡すか」も一緒に伝えましょう。新入社員や出社機会の少ない人にも案内が届いているか、入社・異動時の説明に加えます。
配布を早い者勝ちにしないルールを決める
備蓄の取り合いが心配なら、まず「受け取りに来た人から自由に持っていく」方式になっていないかを確かめます。総量が足りていても、先に来た人へまとめて渡すと、後から来た人の分が残らないことがあります。

配布ルールには、対象者、初回に渡す量、受け取りの記録、追加が必要なときの相談先をまとめます。配布量は、想定日数、品目、保管方法に合わせて決め、社員へあらかじめ知らせておきましょう。東京都の資料も、備蓄の数量と併せて分配ルールを作るよう案内しています。[2]
例えば、部署ごとの在館者名簿に受取欄を作り、受付や救護などでその場を離れられない人には配布担当が届ける方法があります。来客は社員名簿に載らないため、受付など別の窓口で人数と受け取りを確認します。
記録は「氏名または部署/渡した品目と量/受け取り済み/追加対応」のように、配る人がその場で書ける形にします。例えば在館者50人のうち40人へ渡し終えた時点で、未受取の10人が誰で、その人たちの分がどこに残っているかを確認できるようにします。先に受け取った人への追加配布と、未受取者への初回配布を区別しましょう。
役職や雇用形態、普段の親しさで受け取りやすさが変わらない方法を、会社として決めます。個人が持参した備蓄を分けるかどうかまで、会社の配布計画の前提にしないことも大切です。
近隣から支援を求められた場合に、現場の社員一人へ判断を任せると負担が集中します。外部の人に提供できる範囲や相談先も、施設の受け入れ方針と合わせて整理してください。
配る単位を決めると、必要なケース数も変わる
エレベーターが止まった後に、別の階から大量の水を運ぶ計画では、配布そのものに人手が必要になります。国のガイドラインでも、保管場所の分散や、従業員への事前配布を検討する考え方が示されています。[1]
例えば、50人の水を1人1日3L、3日分そろえると450Lです。2L×6本入りは1ケース12Lなので、まとめて買うなら38ケースで456Lになります。ここでは来客分などの上乗せは含めていません。水3Lは飲用・調理用の目安で、手洗いなどの生活用水は別に考えます。[3]
| 配置の条件 | 必要なケース数 |
|---|---|
| 全社分をまとめて購入 | 450L÷12Lを切り上げ、38ケース |
| 10人ずつ5部署へ、未開封ケースで必要量を配置 | 各部署90L÷12Lを切り上げ、8ケース×5部署=40ケース |
開梱して本数で分けるなら、全体で38ケースあれば足ります。各部署へは2Lを45本ずつ配り、残り3本を予備にできます。逆に、38ケースを4部署に8ケースずつ、最後の部署に6ケースと分けると、最後の部署は72Lで、必要な90Lに18L足りません。全社の合計だけでは、この偏りを見落とします。ケース数は、人数に加えて、どの単位で分けて置くかを決めてから確定します。分散保管するときは、浸水や棚の転倒、床・棚の耐荷重、避難経路への影響も建物管理者と確認してください。


サーフビバレッジ 5年保存水|2L×6本
ケース単位で部署へ配置する場合の一例です。2L×6本、合計12L入り。1本の水を複数人で使う場合は、分ける容器なども合わせて準備します。
1ケース 1,583円(税込)
部署へ配置する2L×6本の保存水を見る同じ物を配れば、全員が使えるとは限らない
同じ食品を人数分そろえても、食物アレルギーや宗教上の理由などで食べられない人がいれば、その人の食事を確保したことにはなりません。東京都も、食事に制限がある人などを念頭に、備蓄品の情報を社内で公開・共有するよう案内しています。[3]

品名だけでなく、原材料やアレルゲン表示、調理に水や熱源が必要かを確認できるようにします。制限のある人が代わりの食品を受け取る方法も決めてください。個人の事情は相談窓口で必要な範囲を確認し、全社員には備蓄品の情報と相談方法を知らせます。
食べる前の作業も見ます。袋を開けられるか、調理手順を読めるか、食具は付いているか。購入担当者が使えることと、配られた人が使えることは分けて確かめましょう。水や加熱を使わない食品の選び方は、火を使わない非常食の解説にまとめています。
「配った数」だけでなく、「食べられない・使えないと申し出た人に代わりを渡せるか」まで確認します。同じ量を一律に渡すだけで済ませず、追加や変更が必要な人の申し出を受けられるようにしましょう。
個人の備えを呼びかけるなら、置き場と会社の備えを明らかにする
常備薬、眼鏡、着替えなど、本人が用意するほうがよい物もあります。個人の準備を呼びかけるときは、会社が用意する品目と量も知らせてください。何があるか分からないままでは、社員も不足を補いにくくなります。

フリーアドレスで個人ロッカーがない職場では、備蓄を置く場所も決める必要があります。個人用の小袋や箱を保管できる棚など、自社で管理できる方法を選び、会社の共用備蓄と区別しましょう。
会社の備蓄、会社から個人に配った物、本人が購入した物を分けて管理します。入退社や異動時に誰が点検・補充するかも決めておくと、会社の在庫と個人の持ち物を二重に数えることを避けられます。
携帯トイレを各自が少量持っていても、取り付ける場所、共用の消耗品、清掃、使用後の袋を置く場所までは個人だけで整えにくいものです。会社や建物管理者と、使う場所と管理の分担を確認してください。袋の取り付けや使用後の扱いは、携帯トイレの使い方と保管・捨て方も参考になります。
食料があるだけでなく、休めて片付けられる職場にする
食料が3日分あっても、床で休めない、着替える場所がない、トイレを使うたびに片付け方が分からない状態では、職場で過ごす負担が大きくなります。寝具、プライバシーを確保できる場所、衛生用品を、使う人と場所に合わせて準備しましょう。

東京都の資料では、滞在場所の使い分け、トイレの処理・清掃分担、配慮が必要な人への寝具の割り当てなども検討項目としています。[2]食事の準備や配布、清掃を同じ人に任せ続けず、交代と休息を含めて役割を決めます。
家族の安否が分からなければ、会社に備蓄があるだけでは落ち着いて待機できません。家族との連絡手段や、介護・子どもの迎えなど個別の事情がある場合の相談先も、平時に共有しておきます。[1]
備蓄の数量と、職場で安全に過ごせる条件を一緒に確認しましょう。建物や周囲が危険な場合は、その場にとどまる前提を見直し、あらかじめ決めた避難方針に従います。
水・食事・トイレを一つずつ使い、止まるところを探す
見直した内容は、担当者以外の社員にも試してもらいましょう。平時の安全な環境で、担当者が不在という想定を置き、リストを見て物を取り出すところから始めます。

- 取り出す。 保管場所を見つけ、決めた方法で解錠し、必要な品目と数量を選ぶ。
- 渡す。 配布ルールに沿って受け取りを記録し、不在者やその場を離れられない人の分を確認する。
- 使う。 食品は表示を確認し、食べられる人が開封・準備を試す。携帯トイレは説明書に沿って袋を取り付ける。トイレは実際に排せつせず、模擬練習でも手順を確認できる。
- 片付ける。 食品の空き容器や、使用済みと仮定した便袋をどこへ運ぶか確認し、手指を清潔にする用品の場所も確かめる。
「鍵が分からない」「同じ名前の箱があって選べない」「説明書が読みにくい」「片付け先が決まっていない」といった箇所が見つかったら、場所、表示、手順を直します。訓練で使った分は在庫から差し引き、補充と期限の記録も更新してください。
訓練の成果は、使えたという感想に加えて、止まった作業を直し、次の人が使える状態に残すことです。入社・異動、座席や保管場所の変更、備蓄品の入れ替えがあったときにも、変わった部分の手順を確認しましょう。
品目と運用をまとめて見直したい場合
何を買い足すかだけでなく、置き場所、期限の確認、使用後の補充、社員への周知まで整理したい場合は、備蓄品の選定・管理支援をご利用いただけます。現在のリストと、使う場面で困りそうな点をもとに、依頼する範囲を相談できます。
企業の防災備蓄支援|備蓄品の選定・管理ルールづくり
備蓄リストの棚卸し、商品の選定、期限確認・使用・補充のルール、社員への周知を、合意した範囲で支援します。対象拠点や作業範囲で料金が変わり、備蓄品・体験用物品の費用は別途確認します。
個別見積もり
備蓄品の選定・管理支援の内容を見るまとめ
会社の防災備蓄は、対象人数と在庫に加えて、取り出し方、受け取り漏れを防ぐ配布、使えない人への対応、片付けまで決めると、社員が利用しやすくなります。個人の備えを呼びかける場合も、会社が用意する物と置き場を知らせましょう。

まずは担当者以外の社員と、水・食事・トイレを一つずつ取り出し、受け取って使い、片付けるまでを確かめてください。止まった作業から直すと、買い足す物と、置き方や手順を変えれば済むことを分けて考えられます。
備蓄品の選定・管理支援の内容を見る 不足している保存水・非常食・トイレを探す
参考資料
- 内閣府掲載「事業所における帰宅困難者等対策ガイドライン」(2024年7月26日):従業員への周知、備蓄の対象、保管と配布、家族との安否確認、訓練。
- 東京都「事業所防災リーダー通信」(2024年5月20日号):滞在場所、分配ルール、トイレの清掃分担、個別の事情への対応。
- 東京都「事業所防災リーダー通信」(2024年6月3日号):水の目安、備蓄品の情報共有、食事制限、分散保管と管理。
- 東京都「事業所防災リーダー通信」(2025年2月3日号):スタッフサービス・ホールディングスの防災ツアーと備蓄品の確認事例。
資料・商品情報の確認日:2026年10月23日。水のケース数は、記載した人数・日数・販売単位による計算例です。
